AUGHOST

八月に降る雨が好きだ。走りすぎていた命たちが一息つくように。

道路の上でつぶれていたセミにも雨があたる。鳥も、蜂も、窒素、廃棄ガス、ゴーストも一休みしているだろう。うちの庭に住み着いている蛇はこんな時どうしてるのだろうか。もう連絡をとらなくなったあいつは元気にしてるかなんてふと思った。

家の前の神田川の水かさがみるみる増していく。当たり前のことだけど大きな木の下は雨に濡れない。木の陰で動けなくなって立ち往生。だけど急ぐ理由なんてあったか。オレにはやらなきゃいけないことなんて本当はなかったはずだ。最初から何も持たずに生まれてきて、何も持たずに消えていく。あのつぶれたセミと同じ。雨は必要な時に降る。いつだってそうだった。

何も残らないことはわかってる。思い出はいつも綺麗だけど、それだけじゃお腹がすく、なーんてもんじゃない。綺麗な思い出は時間を重ねると凶器になり、えいえんに限りなく近い存在へと昇華されていく。尾崎豊とかHIDEとか。今だに色焦ることなくそこにい続けているけど、ずっと欲しがって描いてきた永遠ってやつはそんな簡単で陳腐なものだったのか。思ってたのとちがうな。

永遠の正体は神様が女を口説く時の嘘

どっかのバンドがそんなことを歌っていた。

最近、たまっていたフィルムを10本くらい現像に出した。一ヶ月くらいたって、届いた写真をめくると撮った記憶のないものばかりで。そのほとんどは色褪せていて、悲しい輝きを放つ、いつかの光は今、肋骨に刺さったナイフだ。銀色の血が流れ、銅の色になった内臓は呼吸する。俺はまだ、そんなところで地団駄を踏んでいる。時系列にならべるだけでそれはWASTEDなこの一年の軌跡だった。

オレは八月三十一日という日に取り憑かれている。一生忘れない日になっている。あの帰り道の喉の奥につっかえたなんともいえない酸の味を一生、きっと一生、忘れないだろう。徹夜で飲んで、早朝の公園でバスケしてすべて吐いた。あれから脱退したドラマーとは会っていないし、一言だって話していない。オレはこの写真たちをZINEにすることにし、その本に八月の幽霊という造語 ”AUGHOST” と名付けた。埋葬だ。あらかじめ約束された今や、燃やしてきた瞬間達の埋葬だった。八月、この本が裏。

そして表がAbsolutely Imaginationのビデオ。ここにはこの一年間で手にしたものがうつってる。別に詰め込まれてるわけじゃない。いたってシンプルなビデオだ。きっといつかは胸が苦しくなるくらいにはしゃいだ、とあるパンクバンドの夏の日の記録だ。

いつだって手なんかぬけない。容赦なく遊び抜く、VOIDとかそんなだるいヤツが追いつけない速さで走り抜く。くだらない流行りすたりに右往左往するのはうんざりだし、いい塩梅が全てみたいなカルチャーなんて言葉は一ミリも信じていない。オレは想像力を信じてる。イメージする。

イメージ。

押し花がもう一度花になるイメージ。

何度でもはじまるイメージ。永遠の正体がわかっても、その嘘を信じていたい。信じてる自分といたいから。

青くさいと笑えるヤツには用はない。どんなベクトルであれ一生懸命に振り抜いてるヤツを笑えるヤツの悪意なんてオレは目を合わせないし、そういう友人がいるなら切り捨てろ。オレは恥ずかしさをもたない生き方を軽蔑する。生傷をたやすなと、夏に座り込んだメフィストがオレをにらみつける。上等だよ。季節とオレたちどちらが速いか勝負するんだ。

冒険を続ける、そのためにこの星にきた。蝉の声が聞こえる八月始まりの日、21時。

オレたちはこの夏、真実になる

 

 

 


マヒトゥ・ザ・ピーポー

2009年 バンドGEZANを大阪にて結成。作詞作曲をおこないボーカルとして音楽活動開始。
2011年沈黙の次に美しい日々をリリース。全国流通前にして「ele-king」誌などをはじめ各所で
ソロアーティストとしてインタビューが掲載されるなど注目が集まる。
2014年、kitiより2ndアルバムPOPCOCOON発売。
2014年には青葉市子とのユニットNUUAMMを結成し、アルバムを発売する。
2015年にはpeepowという別名義でラップアルバム Delete CIPYをK-BOMBらと共に制作、
BLACK SMOKER recordsにてリリース。
また音楽以外の分野では国内外のアーティストを自身のレーベル、十三月の甲虫でリリースしたり、
野外フェスである全感覚祭やZINE展を主催したりとボーダーをまたぎ自由なスタンスで活動している。

GEZAN 公式サイト 

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