~clear vision about opaque~ – the hatch interview

不穏な時代、目まぐるしく変化する時間の軸を垂直に睨みつける、the hatch
札幌の凍てついた空気を身にまといながら現行の鋭利なサウンドはそのまま東京への警鐘を鳴らしている。会うたびに鋭くなっていく眼光の先に見えている景色に興味が湧き、1st Album『OpaqueAge』が発売されるこのタイミングで話を聞いた。
当初、喫茶店か何かで話を聞こうと思っていたが、木や風がある方が落ち着くだろうか?公園で話そうと出会い頭で提案され、原宿の神社へ。そこには八月の西日が柔らかく刺し、その静寂の中、二人の口は音楽を真っ直ぐに語った。

intervier : Mahito The People


———— アルバムはいつくらいから録ろうって思ってた?

山田みどり(以下、み):前の音源『$NAOMI$』を出した時くらいかな。その時はミックスも自分でやってたんだけど、マヒトから次は十三月から出そうよって話をもらって。まぁその時は口約束ではあったけど、次はアルバム録るぞって思って。そこから最初に音像を決めて、それに合うような曲作っていった感じかな。

———— そうだったんだ。音像を最初に決めてっていうのは、どんな感じに?『$NAOMI$』の時からそういう作り方なの?

み:いや、『$NAOMI$』は今まである曲をまとめて出したって感じ。でも、やっぱり俺がやりたい音って、曲調によっては叶わないものがあるんだなって感じてた。やっぱりブラックミュージックがすごい好きで、それこそD’ANGELOの『Black Messiah』みたく、ベースとかドラムの輪郭がしっかり出てるような雰囲気というか。そうすると、早い曲とかブラストが多い曲はその音像では録れないなって、早い曲を減らして、リズムを重視する曲を増やしてったって感じかな。それまではイメージを伝えて、りょうけんがリフを持ってきて肉付けする作り方がメインだったんだけど、その頃くらいから、最初に俺がある程度具体的に指示したり、デモのビートを作ってから形にしていくスタイルに変わっていったんだよね。

———— アルバムのやりとりしてても、音像の部分は食い下がってたもんね。

み:散々わがまま言いまくったと思うんだけど(笑)。

———— 向かってくプロセスみたいなものが、いわゆるロックバンドとは違うよね。ロックバンドは、自分たちのテンションがまずあって、それを切り取るっていうか。イメージした音像に寄せてくっていうのは、また違う感覚だと思う。

み:いまもずっとそうなんだけど、俺にはロック的なヒーローがいないからかな。

———— ハードコアに目覚めるのはどんくらいからなの?

み:いや、いまも目覚めてないと思う(笑)。ライブ見てると一番魅力的なジャンルだと思うけど、音楽として自分がそれに向いてるかって言われたら、向いてないと思う。それは多分りょうけんもそう。the hatchはシャウトが入ってる音楽だけど、ハードコアだって意識は正直全くなくて。逆にそういう意識を持たない方が柔軟に作っていけるなって、あんまり考えないようにしてる。

りょうけん(以下、り):ハードコアの持ってる凶暴性とか攻撃力だけは失わずに、みどりが持ってきたダンスっぽいリズムで曲ができていくから、面白い感じなのかも。

み:初期のオラつきまくってた衝動を持ちながらだからね。これはハードコアに限らずだけど、自分の音楽性をシーンとかカルチャーと結びつけようとしてくるっていうのが、俺の中ではあんまり好きじゃなくて。いまって誰が何やってもいい時代だと思うから、カルチャーとかシーンは全部後付けでいいなって感じてて。俺もそういうところから入って音楽を聞いたりとかってあんまりしなかったし。

———— それは上の世代の人からすると新鮮な感覚だと思うな。やっぱり教科書通りというか、ジャンルで入っていくって人がほとんどだと思うし、the hatchのそういうマインドは新鮮だと思うんだよな。今日のBEAMSのイベントだって、ライブらしいライブはthe hatchだけでしょ。

み:俺としてはこれが当たり前になっていくべきだなと思うんだよね。どの音楽も内側に向きすぎないでほしいなっていうのはあって。ハードコアに限らずだけど、いい音楽はあるのにジャンルとか、シーン、カルチャーに寄りすぎると、音が素直に入ってこない気がして。自分らも少なからず社会に合わせてうまく生きていけないっていうのが音楽にぶつかっているから、そういうところは自分の中のパンクなんだなって思う。でも、それとシーンとかカルチャーがどうか、っていうのはまた別だなって思う。

———— まぁ「パンク」って言葉一つとっても、マインド的な部分もあれば、ファッションでジャンルの外見だけ先行してることもるし。さっき言ったことって「音楽」って言葉を真ん中に置いて、どう繋がるかっていうクロスオーバー的な感覚なんだよね。GEZANがやり始めたくらいの時、上の世代がクロスオーバー的なことを、すごい頑張ってるように感じて。そこに一生懸命に見えてしまって。前はパンクやってる奴がUMB(アルティメットMCバトル)とか、ヒップホップ聞いてるって話になったりすると、ちょっと驚かれるくらいだったし。でも、みどりとかりょうけんは聞いてる音楽一つとっても、普通にヒップホップもR&Bもハードコアも普通に聞いてる。今PUNPEEもS.L.A.C.Kもみんな好きって軽く言うけど、そういうのも時代で変わっていったって思うし、変わっるとか、クロスオーバー的な努力の流れすらないようなところで、自然にやってるのがthe hatchなんだろうなって思うんだよね。

み:今までは自分がいる場所でしか情報が入ってこなかったけど、やっぱりネットっていうのがデカいと思うな。

———— インターネットはどれくらいから使い始めてたの?

み:どうだろ、高校くらいかな。

———— その時点でYouTubeはあるでしょ?

み:うん、そういうの踏まえて聞くのが割と当たり前だったかもな。それにまつわるというか、アルバムタイトルの『OpaqueAge』って、いま自分たちのいる時代を表現するものにしようと思って。今は情報過多で、当たり前のように並行していろんな答えがあることを、上の人たちはそれを悪く言ったり渋く言ったりするけど、俺はそれが当たり前だし、そういう時代のものだよっていうことで『OpaqueAge(不透明な時代)』って付けて。今の自分たちの音楽のスタイルが、別に珍しくもないし、この時代に当たり前に生まれてきたものだよって気持ちでつけたんだよね。

———— そういう意味なんだね。

み:最初は自分の中のストーリーに合ったものにしようと思ったんだけど、できた曲を聞いてたら、マヒトが言ってたみたいに、今の自分たちで今しか出せない表現の大切さ、みたいなのを感じて。特にりょうけんのギター録ってるときにそれを思ったんだよね。録音している時、上裸で走り回りっててさ、で、俺も一緒に上裸になってたんだけど、りょうけんはギター弾いた後に「これだー!」って叫んで(笑)。今までは自分の持ってるイメージに忠実に作るってことを考えてたけど、今この時にしかできない、自分たちを記録するってことが、レコーディングは大事なんだなって、その時すごーい思って。

《 PREV | NEXT