Exile on Main Street LOSTAGE × GEZAN VOL.2

流通を通さない発売方法で見事なセールスを叩き出したLOSTAGE7thIn Dreams』、そして独自の方法で資金をつくりSteve Albiniによるレコーディングを敢行したGEZAN4thSilece Will Speak』。LOSTAGEの五味岳久×そしてGEZANのマヒト、音楽ライター石井恵梨子によるクロストーク。Vol.2は彼らの見る未来の話へと進んでいく。

Vol.1こちらから。

———— GEZANって、どこか大手のレーベルに所属したり、将来的にメジャーに行こうって考えたことないんですか。

マヒト:あんまないんすよね。

五味:メジャーデビュー考えたことないの? 上京してんのに?

マヒト:……はっきり言ってあんまないっす(笑)。よく「昔は良かった」って言うじゃないですか。でも俺、平成元年生まれですけど、全然……初めから羨ましい時代が一個もなくて。最初から音楽業界は破綻してたしハリボテ感しかなくて。だから「昔のほうが良かった」感覚が一個もないのが自分ら以降の世代の強みだと思う。なんか変な迷いがない。

五味:そうね。言ってることはわかる。俺らはたぶんギリギリCDが売れてた時期と、急激にガンと落ちていった狭間くらいにバンド始めてるから。最初は「これでメジャー行って音楽を生業としたい」って気持ちもあったし。

photography by 五味岳久

———— 私はもうちょい上で、CDがボコボコ売れてインディーでAIR JAMブームが起こった時期も知ってるんですよ。たとえばイースタンユースがアメリカでレコーディングしてるから取材に行くぞって言われて、レコード会社のカネで飛行機乗ったりするような時代だったし。でもバブルが終わってからはCDが売れなくなって、00年代後半からはメジャーの世界からオルタナがどんどん消えていった。で、これは完全にキツイなと思ったのが、THE★米騒動が出てきてまったく売れなかった時。

五味:あぁ。ていうか……米騒動、売れます?

———— いや、売れ線の音では全然ない(笑)。でも彼らは〈閃光ライオット〉っていうメジャーが絡んだオーディションでグランプリを獲ったバンドで。

五味:あ、グランプリ? そんな華々しく、鳴り物入りで出てきたんや。

———— そう。ソニーがバックに付いてたはずで。でもアイディアは面白いのに売れなかったし、これでは食えないと判断して彼女たちはスパッと活動休止しちゃったんですね。いくら鳴り物入りでも、メジャーの世界でオルタナがまったく太刀打ちできないってリアルにわからされたのが2010年代だった。

マヒト:あぁー。米騒動がオルタナかどうかはまた別ですけど、でも今バンドやってたらそうなりますよ? さっきの五味さんの「音楽だけやりたい」っていうのは、今の時代、甘えでしかないと思う。

五味:はははは! でも夢としてはあるやん?

マヒト:もちろんわかりますよ。カルロスも「やっぱベースの練習だけしときたい」とか言うし。でも俺に関していうと諦めからスタートしてるから。もう開き直るしかない。音楽で食うことに最初から期待してないんですよね。

———— これは『In Dreams』を出した時に五味さんに訊いたんですけど、「DIYはいいけど、それじゃあ広がらないじゃないか」って言われたら、マヒトさんはどう返しますか。

マヒト:あぁ……まぁ、見つける奴は見つけるだろうと思ってはいる。どうなんですかね? そこはちょっと答え出てないかもしれない、俺も。

五味:うん。ほんまに必要としてる人のところには、まぁ放っておいても届く、いつかは届くなって感覚はある。けど、そこ以外となると……。

マヒト:うん。いい思いしてないからかもしれないけど、その質問自体が今の自分にとっては新鮮な響きですね。石井さんはAIR JAM見たりCDバブルの頃を知ってるから、俺たちを見ても必然的に「広がりっていう面ではどうなのか?」って思っちゃうってことですよね。

———— そうですね。やっぱりパンクのパの字も知らない高校生が飛びついて来るものじゃないと、本当の意味でバズって起きないんですよ。それをバンドが望んでるかどうかは別としても。

マヒト:あ、そういう淡い期待は俺らもありますよ?

五味:俺らもある。今もある(笑)。でも、高校生とか一見さんに食らわしたい気持ちはあるけど、クラスに40人いるとして、そのうちの20人に届けるっていうよりかは……ほんま一人しかいてない変な奴、そいつらに向けるほうが自分としてはフィットするかな。言ったら自分もそっちのタイプやったから。もちろん今回のアルバムでやった方法が続くかって……まぁ続いていくわけないよなって感じもするんですよ。現状維持が目的じゃないし、これから世の中もどんどん変わっていくだろうし。だから今、次に向かってどうしていいかわからない状態っていうのが気持ち悪いとは思うけど。

マヒト:俺はね、そんな不安はないんですよね。そのタイミング、そのタイミングで正義みたいなものがあるじゃないですか。今回のリリースはこのやり方でやるし、また次何かしらアクションする時にはちゃんと周りを見て、自分がこうありたい理想みたいなものを掲げて、馬鹿みたいに「これやりたいですー!」って周りに問うていく。それを続けていくだけかなって思ってて。

———— 二人とも、今回のやり方が正しい、この形で続けていけばいいとは思っていないんですね。

マヒト:うん。何回も同じやり方って、次もスティーヴで録音するってなったら……ただの乞食やと思う(笑)。それはしたくないんです。

五味:その時その時で自分の一番いいやり方を考えて。なんか新しいこと、みんなが興味を持つことやらないかんっていう危機感はあるよね。広がりはないかもしれんけど、いわゆる内輪ノリを自分の手の届く範囲で育てていって、エネルギーが途切れないようにできる可能性が、今の時代ちょっとあるんじゃないのかなって思う。

photography by タイコウクニヨシ

———— それがもっと話題になってバーンと広がらないのが歯痒いですけどね。LOSTAGEが過去最大キャパのワンマンを成功させたとか、なんでみんなニュースにしないんだろうって。

五味:それは俺も思う。GEZANがアメリカでツアーしてアルビニと録音して……まぁアルビニのネームバリューが今どれだけあるかわからんけど、そこから広がる可能性のあるトピックやなって俺は思うけど。その話題に食いついてきた人、インタビューさせてくれとか、そういうのはないの?

マヒト:いや、特にないっすね。

五味:ないんや!

———— だから広がらないのはこちら側、メディアとかライターのせいでもあると思います。ピザオブデスのコラムに書いてもそんなに届かない(苦笑)。

マヒト:あー、PYOUTHの広報力もめっちゃ弱いですからね(笑)。

五味:でもここで負け犬の遠吠え感が出るのが嫌やねん(笑)。そこで一石投じてやろうとするメディアとか、ないんですか?

———— ピザに出した記事を見て「やられた!って気分でした。ウチでできないのが悔しい」みたいに言ってくれた編集者は何人かいましたね。でも、みんな予算の問題だったり、あとは編集長の判断でGOが出ないっていう現実があるみたい。私はフリーランスだから自分で思いつけば勝手に動けるけど。

五味:話訊きたい人がいたら身銭切ってでも聞きに行くっていうね。そういうの、みんなもっとやればいいのにって思う。そうあるべきじゃないですか?

マヒト:でも、そもそもメディアってどうなんですかね? 森達也っているじゃないですか。佐村河内守のドキュメンタリーの『FAKE』も面白かったけど、結局あの作品で彼が何を言いたかったかって、この世界にはメディアって言葉も本当はなくて、もう個人のドキュメントだけがある、っていうことじゃないかと俺は思っていて。昔はメディアとかニュースって、ある種の客観性、中立性を提示してる風だったけど、それがいかに個人的なニュアンスで作られて事実を歪めているのかって、もうみんなわかってるじゃないですか。俺自身、メディアにはもう全然期待してなくて。そんなの最初から機能していない。個人的なドキュメントだけがあるっていう。ライターもね、昔の人だったら音楽の歴史とかみっちりわかったうえで語ってただろうけど、俺もう語らなくていいと思ってて。過去の音楽の歴史を踏まえて「今これが最新なのはなぜか」って語る時にさえ個人のバイアスがかかってるわけで、それを信じる奴もアホだと思う。俺はメディアとかメジャーって枠に期待してないし、それよりは個人の力のほうを信じてるかもしれない。

———— ただ、個人の発信はやっぱり弱いですよね。レーベルのサイトで発信してもZINEっぽく見えてしまう。

五味:だから、ほんまにオルタナはどんどん村化してる。細かく層も分かれて、分断されてる感じがするんですよ。自分から興味持って追っていけばわかるけど、気ぃ抜いたらGEZANが今何してるか全然わからんくなる。それってどうなんかな、とは俺も思う。

マヒト:そうですよね。俺も最近ツイッター止めちゃったんですけど、そしたら一気に何も付いていけなくなっちゃった。それは実感した。だから……さっきから言ってるけど、「広げる」ってことに対しての答えがどっちも曖昧になってることが今浮き彫りになってますよね。

五味:そうやな。でも答えが出てたら俺らもこうやって対談する必要ない。これはもうみんなで考えていくしかない。そこが問題提起なわけで。

マヒト:それ以外のことはすごくクリアですもんね。

五味:そうそう。何も間違ってないし健全にサイクルが回ってる。どっちのバンドにしてもね。ただ、これを次に繋げていくために、広げていくために……っていうところやねん。そこ突っ込まれると何も言えない。「もうそれでいい」って言いたいとこもあるけど。

マヒト:そこで完全に開き直れるほど視野が狭くはないんですよね。

五味:どう思う? これから俺らはどうしていけばいいんかなぁ?

マヒト:いや、これでお金できたから、奈良に城でも作ったらいいんじゃないですか?

五味:城か(笑)。でも店はもう作ったし、弟も店始めたし、リアルな現場としての場所はあるから。「お前らがいるんやったらツアーの行程で奈良も行きたい」って言ってくれる人がいたり、そういうのができてる実感はちょっとずつあるんですよね。ある程度地元に場所は作れたから、これ以上作ってもな。ネバーランドもあるし、スタジオもあるし。

———— 今後、奈良がバンドマンの移住地になったりすると面白いですよね。

五味:あぁ、いろんなとこからわざわざ来るみたいな?

マヒト:あ、スティーヴのエレクトリカル・オーディオがすごく良かったのは、スタジオが下にバーンとあって、上が宿になってることなんですよ。シカゴの人がRECするだけじゃなくて、遠方から来る人をあらかじめ想定してるんですよ。泊まるとこからキッチンから、ミーティング・ルームとかもあって。

五味:……それを俺らがやるん?(笑) まぁ街としては面白いけど。

———— オルタナを知りたければ奈良へ行け、みたいになっていって。

マヒト:アレですよ、まず1000万を俺に投資して、映画作りましょ! カネは格好よく使うのが一番いいんですよ。格好良く綺麗に使いたいからまた稼ぐ。それが一番いいですよ。だから五味さん、映画作ろう!

INFORMATION

GEZAN 4th full album 「Silence Will Speak」

Recorded at Electrical Audio Studio
Recording and Mixing by Steve Albini

Mastered at Chicago Mastering Service
Mastering by Bob Weston

Design by 北山雅和

Photography by Shiori Ikeno

JSGM-30

●LP先行発売
2018年9月26日発売
¥3.000(税込)

●CD
2018年10月3日発売
¥2.300(税込)

LINK:
GEZAN

LOSTAGE [ In Dreams ] (CD作品/2600円税込)

収録曲

さよならおもいでよ
ガス

ポケットの中で
REM
泡沫の
戦争
I told.
僕のものになれ
Shoeshine Man

LINK:
LOSTAGE
THROAT RECORDS