Interview with Keith Morris

キース・モリス。パンクやハードコアが好きなら誰もがその名は知っているはずだ。BLACK FLAG、Circle Jerksでハイエナジーなボーカルを轟かせた80年代USハードコアの超重要人物。還暦を超えた今もなおOFF!やFLAGといったバンドで活躍し、今なお現役で衝動に満ち溢れまくった音を鳴らしている。パンクやハードコアのドキュメンタリー作品を見れば度々登場し、若い世代の僕らにも当時の裏話やパンクのマインドを伝えてくれる。まさにパンクを体現する、生ける伝説。1分少しのパンクソングが始まりキースが吠えれば、問答無用のカッコよさを前に、僕たちはいつでもキッズになり拳を上げて応えてしまう。そんなキース・モリスがTシャツのブランドを始めたというのだ。

“Meet me at Shinjuku at 4pm on April 27th…..tommorrow! Cheers, Kieth” そんなメールが届いたのは取材前日。キース・モリス来日のニュースを見て、キースに会えるんじゃないか?そう思った僕はダメ元で取材依頼のメールを送っていた。とにかくやってみよう、そんな気持ちで先のことは考えきれていなかった。緊張と興奮でぐちゃぐちゃの気持ちで約束場所である新宿のAMERICAN RAGCIEに到着する。すると茶色いハンチング帽に黒縁の丸メガネ、そしてあのトレッドヘアー、僕の知ってるあのキース・モリスがいた。「腹が減ったから飯を食いたい。このあたりでうまい寿司屋あるか? 俺たちをエスコートしてくれ」。会うなりそんな難題を突き付けられたが迷ってる暇なんてない。キース・モリスが言ってるんだ、どうにかするしかない。なんとか近場のいい感じの寿司屋に入る。まだ目の前で起きている状況に頭が追いついていない僕らに気遣ってくれたのか「お前らもどんどん食えよ」キースたちはそう言って寿司をご馳走してくれた。
 
今回キースが始めたブランド『IMAGE CLUB LTD.』は、友人であり、Tシャツブランド「Teenage Millionaire」のオーナー、ダグ・ウィリアムズ(Doug Williams)とともに新たに始めたプロジェクトだ。彼らの住む南カリフォルニアで活躍する写真家の作品ををTシャツにし発信している。ラインナップを見れば思わずニヤけてしまうような写真や若かりし頃のあんな人やこんな人の姿まで。今回は『IMAGE CLUB LTD.』について、そしてバンドについて、限られた時間の中だがインタビューを敢行した。還暦を超えれてもなおエネルギッシュに活動するキース・モリスという男は、PUREな気持ちにあふれた愛すべきパンクスだった。
 
Edit, Photo, Interview : Kaito Yoshikawa 
Translator, Photo :UMMMI.
 

 

———— 僕らはPYOUTHっていうWEB MAGAZINEをやっているんです。よろしくお願いします。

キース:いいから寿司食えよ。

 

———— ありがとうございます…!ロサンゼルスにも寿司屋さんはたくさんあるんですか?

キース:あるよ。家のすぐそばの角には「サイトウ」っていう店がある。

 

———— 寿司のネタは何が好きなんですか? 

キース:マグロだな!あとはエビ。で、お前は何が好きなんだ? 

 

———— 僕はハマチが好きです。

 

———— 日本に来るのは久しぶりですよね?
 
キース:そうだな、前に来たのはだいぶ昔だったっけ。それに3日間滞在しただけだった。VICEが企画したパーティーに呼ばれたんだ。そうだ、思い出したぞ。その時はBiSっていうBABY METALみたいなやつらと一緒に演奏したんだよ。俺は61歳だってのに、17歳のかわいらしい女の子と一緒にやるっていうんだぜ? あいつらはなんていうか…自分の意志とは別にマネージャーみたいなやつに言えって言われたことをそのまま演技してるような感じがしたんだ。ウケる話が、オレらのメンバーの一人がそのメンバーのひとりに言い寄ってさ…(笑)。や、そいつは俺のことじゃないよ、当たり前だろ! しかしBiS のメンバーのお客さんは全員変態っていうか、パソコンオタクっていうか、まるでさっき仕事が終 わったばかりかのようなだせえスーツ着ててさ、そんな夜だったよ。
 

———— いきなりすごい話ですね…(笑)。今回新しく始めた『IMAGE CLUB LTD.』について教えてください。 

キース:これは、友達のダグ・ウィリアムズ(Doug Williams)ってやつと一緒にロサンゼルスで始めたんだ。そして、エド・コルヴァー(Ed Colver) とゲイリー・レナード(Gary Leonard)っていう二人の写真家と組んでやっている。彼らの写真をTシャツにプリントしているんだ。二人も友達で、俺は二人のことを彼らが写真を撮り始めた時から知っている。あれは1981年ぐらいの出来事だったかな。もしかしたら82年だったかもしれない。ウエスト・ハリウッドにすごく有名なクラブがあるんだが、パンクロッカーたちがすごくやばいやつらに見えたのか、その街のコミュニ ティーに適してなかったのか、ある日警察が来て騒ぎになってしまった。その頃くらいから知っているよ。


———— エドとゲイリーはどんな写真家なんですか?

キース:エド・コルヴァーは500枚以上のアルバムカヴァーの撮影をしている写真家だ。例えばエアロ・スミスだろ、 R.E.Mだろ、とにかくそうゆう有名なやつらだ。でも、あいつが初めて撮ったアルバムカヴァーは、 Circle Jerksの『Group Sex』なんだぜ。 

ダグ:え、本当に?それがあいつの初めて撮ったアルバムカヴァーなのか?

キース:そうだ。あとあいつが撮ったのは、例えばADOLESCENTS、Social Distortion、Bad Religion、、本当にいろんなやつらだ。 


———— ロサンゼルスのパンクを語る上では外せない人なんですね。『Group Sex』のカヴァーはどうやって撮ったんですか?

キース:エドはいつもライブハウスとかクラブにいて、ひたすら写真を撮ってたんだ。いつだったか、 Circle JerksとADOLESCENTSでマリーナ・デル・レイ・スケートパークでライブをしたんだよ。そこはプールをコンクリで埋めてスケート場にしたところなんだが、俺らがその中に立って、エドが上から撮影した。あいつとは35年とか36年、いやもっと長かったかな、それくらいの付き合いなんだ。 

 

もうひとりの写真家・ゲイリー・レナードは、実はエド よりも先に写真を撮り始めていたんだ。というのも、二人が決定的に違うところは、ゲイリーは街角に立って、面白いと思ったことはすぐ写真に撮るタイプ。エドは何があっても絶対に撮らない。日常とか、普通の光景をわざわざ写真に撮ろうとは思わないタイプなんだ。ゲイリーが、スターウッドっていうクラブで、The Gun Clubのジェフリー・リー・ピアスを撮ったんだ。あとはこの写真も撮ったやつだ。写ってるのはレイモンド・ペティボン、 MinutemenのリードボーカリストのD・ブーン、あとはずっと長い間友達のブレンダン・モーラン。ブレンダンはThe MasqueっていうLAにあるストリッ プクラブとポルノ映画館の下にあるパンクロッククラブのオーナーだった。
———— どうしてバンド以外で新たに始めたのが『IMAGE CLUB LTD. 』なんですか?

キース:ここにいる俺の友達のダグがTeenage Millionaireっていうファッションブランドをやっているんだ。彼と一緒に話していた時に、俺の友達にイケてる写真家が2人いるから、それをTシャツにするのはどうかなって話をしたんだ。 

ダグ:キースは俺にとってのファレル・ウィリアムズなんだ(笑)
 
一同:(笑) 

キース:おいおい、勝手に決めつけるなよ。

ダグ:キースがこの素晴らしいアイディアを持って来てくれたんだ。最初はもっと彼らのバンドがメインだったんだけど、ただのバンドTシャツよりも写真の方がもっと面白いことに気づいた。そこが全ての始まりだったんだ。キースと出会えたことは俺にとっても大きい出来事なんだ。俺らはすごくいいチームだよ。 

キース:俺はリーダー、やつはフォロワー。
 
ダグ:俺にとっては都合のいいことだ(笑)。
 
キース:俺はカニエ・ウエスト、やつはキム・カーダシアンだ。
ダグ・ウィリアムズ:ファッションブランド『Teenage Millionaire 』オーナー。
 
———— 『IMAGE CLUB LTD.』はあなたたちの地元、南カルフォルニアに根付いているんですね。南カリフォルニアの昔と今って、変わってきているんですか?

キース:それはすげえいい質問だよ!答えることは難しいんだけど、南カリフォルニアは前からあったビルがなくなって、そしてどんどん新しいビルが建っていった。そして一緒にバンドやってた友達もどんどん年老いていって、俺らも同じように年老いていった。でもまだ変わらずに同じロサンゼルスでライブをやり続けている。そして新しいバンドもどんどん出てきている。文化そのものがめちゃくちゃ変わったってわけではない。まあ、変わっていったところもあるだろうが、俺らを取り巻くたくさんのカルチャーは基本的にそのままなんだよ

あとはここに住むやつらが増えた。俺はすごい忙しい場所の角に住んでいるから、信号待ちしている時に、例えば6人立っていたとしたらそのうち5人はバンドをやってるやつらとか、そうじゃなければ本を書いていたり脚本を書いていたり、レストランで皿洗いをしている女優を目指している人とかね、そういう街だ。 

音楽の話でいえば、未だにアンダーグラウンドなシーンはある。ただ、実はすごく素晴らしい クラブ『The Smell』が閉店してしまったんだよな。No AgeとかMika Miko。Mika MikoはいまのBleached っていうすげえいいバンドだけど、あとは俺の友達のCathy CooperとかもThe Great Sadnessっていうバンドでそのシーンにいたし... いま『The Smell』はお金を集めて新しいクラブを開こうとしているんだ。


No Ageのアルバム『Weirdo Rippers』でもお馴染みのロサンゼルスのThe Smellのドキュメンタリー映像。ボランティアにより運営され、音楽だけにとどまらないアンダーグラウンドなカルチャーの発信地として知られる。

キース:お前ら、もっと寿司食えよ。

———— ありがとうございます…!
 
———— いまキースが気になっている若手のバンドや音楽はありますか?

キース:さっきも話したThe Great Sadnessが好きだな。あとはThe Jesus and Mary Chainの新しいアルバム聴いたか? 彼らは、もちろん新しいバンドではないけど好きだな。あとはCareer Suicideかな。Career Suicideのフロントマンは、Fucked Upのドラマーでさ。あとはKing Gizzard&The Lizard Wizard、Tame Impala 、あいつらの最近のアルバムは嫌いだけど、最初 の二つはいいよな 。うーん、困ったな。でもやっぱりすげえ好きなのはAC/DC、アリス・クーパー、The Beatles、The Beach Boys、The WhoにThe Kinksだろ、ええと、The White Stripes…。そういえば昨日ディスクユニオンに行ったんだ。お前もさっき袋を持ってたよな。そこで俺のすごい好きなオーストラリアのバンド、The Masters Apprenticesのレコードが4万5千円くらいで売ってたよ。もう持ってるから買わなかったけど、もし持ってなかったら買ってたと思うよ。俺は酒もドラッグもやらないから、高いレコードを買うことができるんだ。そのレコードは確か1972年代のだったかな。Jane's Addiction聴いたことあるか? あいつらもThe Masters Apprenticesからすごく影響受けてるんだってさ。

 


The Great Sadness:Cathy CooperとStephen McNeelyによるギターとドラム2人組のデュオ。
デビューEP『WEEP』が4月に発売されたばかり。
bandcamp:https://thegreatsadness.bandcamp.com/album/weep-2


Fucked Upのメンバーも在籍するカナダのハードコアバンドCareer Suicide。
3rdアルバム『Machine Response』が4月に発売された。
bandcamp:https://careersuicide.bandcamp.com


King Gizzard & The Lizard Wizard:オーストラリアの7人組ガレージサイケ集団。2017年に入ってからすでに3枚のアルバムをリリース。MVもビジュアルも何もかもが完璧。リリースペースに追いつくのが大変なことでも有名。

 

————ここからはバンドのことを聞かせてください。難しい質問かもしれませんが、ハードコアをやろうと思ったきっかけはありますか?

キース:BLACK FLAGを始めた時、いろんな状況が俺らを取り巻いていた。例えば高校生の時なんて、可愛い女の子たちは俺らとなんて口もきいてくれなかったのさ。なぜなら俺たちはイケてるやつじゃなかっ たしな。それに、その時に人気だった音楽はもうブランディングされていて、例えば金曜とか土曜の夜 にライブハウスに遊びに行けば、ラジオのトップ40に流れてるような音楽で…フリートウッドマック、イーグルス、、、

ダグ:スティーブ・ミラーは?

キース:そうだな、スティーブ・ミラーもだ。俺は好きじゃない。とにかく、それじゃああまりにも クリエイティビティがないし、つまらないと思った。俺たちは何をすればいいかわからなかったけど、ただやってみたんだよ。

 

————『OFF!』のバンド名はどこからつけたんですか? 

キース:『OFF!』は、半分レッド・ツェッペリンの影響を受けていて、もう半分ブラッグフラッグの影響を受けているんだ。ギターのディミトリは頭のキレるやつなんだけど、そいつが「虫除けスプレーの名前から決めてやる!」って言い出した。そこにOFF!って書いてあったからさ。 

———— OFF!のジャケットも全て最高です。やっぱりレイモンド・ペティボンにって決めていたんですか?

キース:そうだな、かっこいい絵だからに決まってるから当然だろ! そして友達だしな。OFF!で初めてレコーディングした曲を聴かせたら、何かで関わりたいって言ってくれたんだ。それで彼のアトリエに行った時、この中から気に入った絵があれば勝手に使ってくれ、って訳だよ。2000枚とか3000枚の中から選んだんだよ。 知ってるか?俺たちは同じ高校だったんだ。そしてBLACK FLAGのグレッグ・ギンとペティボンは兄弟なんだぜ。

 

———— 兄弟っていうのは読んだことありますけど、同じ高校だったなんて初めて聞きました。

キース:ペティボンってのはアーティスト名で、本当はレイモンド・ギン。でもペティボンっていう響きが、サッカーでもやってるスポーティーな男って感じがして面白くて、ペティボンって周りが決めたのさ。本当はバスケのドリブルもできないようなやつなのにな。
 
キース・モリスはこの日、来日イベントでDJとして参加。BLACK FLAG、The Zeros、Eyes、The Gun Club、Sky Saxon、The Chamber Brothers…とロサンゼルスのバンド縛りの選曲(締めの曲はXのLos Angels!)で、地元愛に満ちたDJセットだった。
 


この日、キースのかけていたThe Flash EatersのSee You in The Boneyard

 

————  バンドはもちろん、『IMAGE CLUB LTD.』も新たに初めてすごく精力的だと思います。何が今のモチベーションになっていますか?
 
キース:俺はファッションの人間じゃないからブランドはやってるって言わないな。ただイケてる写真家を知っている、っていうそれだけだよ。モチベーションになってるのはなんだろうね、ただグレッグ・ギンと今夜は何しようかって話をして、それで音楽をやってる感じ、それと同じ。昔と何も変わらない。
 

ダグ:何がすごいって、キースには戦略とか計画ってものが全くなくて、ただ目の前にある彼がやりたいことを一生懸命やっている。それで、次はこれ、その次はこれ、って感じで周りを巻き込みながら、とても素晴らしいものを作っていく。それは簡単だったり難しかったりするが、スムーズにできたり、いい感触をつかめた時に、自分のやっていることが正しいってことに気付くんだ。自分は『Teenage Millionaire』っていうファッションブランドを持っているしそれを楽しんでいるけど、キースの持ってきてくれた写真をTシャツにするってアイデアはすごく面白いと思った。ロサンゼルスの歴史的な 瞬間を写している写真がたくさんあるんだ。それが日常的に見れるのは最高じゃないか。例えばパトカーと警察官の写真とか、かっこいいだろ。俺はファッションの人だしファッションを愛している、 でもこれはもっと、歴史的なことをやろうとしているんだ。 

キース:俺はキュレーターみたいなもんだよ。俺はいつもレコード会社と仕事をしているが、最近のやつらがリリースする音楽は本当にクソなんだ。それでなんでこんなやつらの音楽を支持するんだって聞いたら、あいつらはレコードを100万枚も売るからだとよ。俺はそいつに言ってやったよ、そんな理由で一緒に仕事をするもんじゃねえってな。俺にとってTシャツに写真をプリントするのは、まあレコードレーベルをやってる感じかな。それかアートギャラリーだ。

最初はロックバンドの人たちをプリントしてTシャツにするっていうアイディアの他に、新品のアルファロメオの車とかをプリントしようと言う話になった。高級車に火をつけてやろうぜ、と思ってな。LAにはそうゆうカルチャーがあるんだよ。高級車を買って「へーい俺を見ろよ!」みたいな感じで見せびらかすエゴイスティックなカルチャーがな。小せえペニスみたいなもんだ。だからもし高級車が燃えたり爆発したりしてもそれは一種のカルマなんだよ。

ダグ:俺たちはどれだけバンドTシャツに見飽きていることか。もちろん、好きなアーティストのTシャツは最高だけど、俺はもっと、ミュージシャンじゃないそこらへんの人とか、別に変哲のない街角とか、そうゆうのをやりたいんだ。だってクールだろ?いろんな日常の視点を見せるんだ。もちろんバンドTシャツもいいけど、あまりにも普通すぎる。あまりにも普通すぎて、飽き飽きしてるからさ。 

 
————  最後に、これを読んでいる日本の若者にメッセージはありますか?

キース:メッセージか、もちろんあるよ。とてもシンプルさ。 “Have Fun!”