Exile on Main Street LOSTAGE × GEZAN VOL.1

昨年6月に発売されたLOSTAGEの『In Dreams』。流通会社を通さない販売方法が話題になったこのアルバムについて、取材を申し込んだのは、GEZANのマヒト(当PYOUTH-MAG)と、フリーの音楽ライター石井恵梨子(PIZZA OF DEATHで連載しているコラム)、そして曽我部恵一との対談という形で記事を作ったウェブメディア「CINRA」のみだったそうです。

LOSTAGEは見事なセールスを叩き出し、過去最大キャパのワンマンも成功させたのに、それを報じるメディアがない。同じことは、今年に入り〈BODY VUILDING PROJECT〉を成功させ、無事西海岸ツアーとエレクトリカル・オーディオ・スタジオでのレコーディングを終えてきたGEZANに対しても言えるのです。DIYを模索しながら進んでいくバンドの現状と、それを広く伝えていく手段の難しさ。メジャーとインディ、メディアと個人発信の現状はどうなっているのか。ようやく実現した五味岳久(LOSTAGE)インタビューの続編は、マヒト(GEZAN)、石井恵梨子(ライター)によるクロストークというかたちで進みました。


———— 前の対談はLOSTAGEのアルバム発売前でしたよね。五味さんがブログで発表したステートメントを見て、マヒトさんがすぐ動いた。

マヒトゥ・ザ・ピーポー(以下、マヒト):そう、「大丈夫かよ!」って思ったんですよね。最初は五味さんの怒りのアベレージが上がりすぎてるのか、もうヤケクソっていう感じにも見えたし。もちろん実際に話を聞いたら違ったんですけど。石井さんは最初にあのブログ見た時、どんな感触でした?

———— 喧嘩売ってるなぁって思いました。

五味岳久(以下、五味):ははは。誰にですか?

———— プロモーションの時に稼働する私たちライターもそうだし、あと流通会社やレコードショップにも熱心な売り手はいるわけですよね。ビデオを作る人もいれば、その映像を流す放送メディアもあって。そういう、作品がリリースされる時に動く業界の人たちへの挑戦状っていう感じがして。

五味:そうっすよね。言うたら今まで踏んできたプロセスを省いたし、自分には必要ないっていう判断をしたから。そういうところにいる人たちにしたら不義理みたいな。そこは自分でも感じながらブログ書いてましたけど。

———— そこでメラッと来てCD買ったから、挑発の仕方としては正しかったと思うけど(笑)。あと当時五味さんは「売り上げは絶対落ちると思う」って言ってましたよね。それが蓋を開けてみたら4000枚も売れたと。

五味:そう。予想よりすごくいい数字で。最初は「2000枚が目標」とか言ってたから。たぶん今まで買ってくれてた人だけじゃなく、僕の発言とか売り方を知って、ちょっと面白いなと思って買ってみた、応援したいなって気持ちになって新しく流れ込んできた、みたいな人もけっこういたんじゃないのかな。

マヒト:枚数的には前のアルバムとか、その前と同じくらいですか?

五味:まぁまぁ、ちょっとは落ちてるけど、でもだいたい5000枚くらいがアベレージやったから。落ちたといっても思ったほどじゃない。

———— でも取り分はまったく違う。だから儲けで言ったら……

五味:そう、めちゃくちゃ多い。単純に2600円で売ったものが4000枚で……誰でも計算できるやん? 今、こうやって儲けた感じになんのが嫌やねん(笑)。最近みんなに「カネ持ってるでしょう?」とか言われるし。

マヒト:持ってるから、しゃあないでしょう(笑)。

———— この例を見たら、もう全部手売りにしたほうがいいんじゃないかって、自主でやってるバンド全員が思うんじゃないですかね。

マヒト:LOSTAGEはTHROAT RECORDSやってたことと、あとは信頼を積んでここまで来てるから。全バンドマンに同じやり方が通用するとは思わない。よくよく考えると、バンドが最初にスタートする時のCD-Rと今回の売り方って変わらないですもんね。CD-R作って何の流通も通さずライブの物販で売って、あとはホームページで連絡くれた人には発送できます、みたいな。だから新しく見えるんだけど、一番プリミティブなやり方でもあるし、かといって全員が上手くやれるやり方でもない。

五味:うん。で、これが正解なのかって言われたら僕にもわからない。「このやり方でみんなやろうぜ」とか、そういう気持ちには全然ならないし。数字出せて、ツアーも動員増えて、ワンマンも最大キャパもやれましたって、大成功みたいな感じになってますけど……あんまり気持ちよくない。

マヒト:今、どういう感じなんですか?

五味:なんか「これを俺はずっと続けていくんか?」って思う。このベクトルで、直接届けること、伝えることの純度だけ考えればいいのかって。それこそ村社会っぽくなるし。今いる人たちとの濃度を上げていくだけっていうのが、自分が音楽でやりたかったことなのか。最初は「それでいいです」って言えたけど、でも「本当にこれを続けるのか?」って、それはツアー終わって改めて感じたかなぁ。ずっと続けていって、たとえば10年後とかを考えたら変な方向行きそうやなって思うし。もう新しい風とか流れみたいなものが入ってこぅへん気がする。

マヒト:あぁ。でも俺は、ほんと昔みたいに閉鎖的な村社会にはならないと思う。今CRASSみたいなバンドが出てきたとしても、当時の何倍のキャパにもなると思うし。このPYOUTHも閉鎖的に見えるとは思うけど、アクセスしようと思えば誰でもアクセスできる広い場所に落とせるじゃないですか。

五味:まぁな。ネットってそういう場所やから。でも今は、次に自分が向かうべきところがちょっと見えへん。このまま、このペースで2年に一枚とか出していけば食ってはいけるやん。それはそれでいいけど。なんか……なんでここまで「売ること」考えてやらないかんのやろう? そういう根本的なところに立ち返ってる。ほんまに音楽だけっていうことが全然やれてなくて、カネの計算はもちろん、商品の在庫管理とかツアーのブッキングとか、そういうのにずっと追われてる。だから今、音楽やりたいなぁ……はははは! それはこの一年、自分で全部やってみて思ったこと。

マヒト:なるほどね。全部一人でケアしてやった反動もあるんでしょうね。でもそれって、もともとTHROAT作る前にレコード会社からリリースしてて、自分は音を作るだけ、そうじゃない部分は他のプロの人たちが動いてくれることを知ってる人の意見って感じですね。俺からすると。

———— マヒトさんの世代から見ると、DIYの感覚は違いますか。

マヒト:自分に関していうと、最初から誰も声かけてくれなかったんで。ファースト・アルバムからずっと十三月(の甲虫)でやってたし。なんか、自分で作って自分で売るっていうのがわりと染み付いてて、逆に誰かが声かけてくれる時はラッキーでしかない。出会いがあって、一個の記念碑みたいな感じで出す作品もありますけど、でも誰と絡んだとしても母体は十三月にあるっていうか。たぶん一生この感じでやるだろうなって最初から思ってる。

———— LOSTAGEGEZANみたいなやり方って、いまやアンダーグラウンド特有のものでもなくなってますよね。たとえばずっとメジャーで活動してきたクラムボンが、最近は流通を通さないで作品を発表したり。

マヒト:あの……これ批判じゃないんですけど、クラムボンのミトさんが自分で売り始めることをインタビューで語ってたんですよ。「もう今の時代は自分で直売! これが世紀の大発見!」みたいなテンションで。びっくりした(笑)。逆にいうとメジャーの世界ってこんなにタイムラグあるんだと思った。

五味:それは仕方ないんちゃう? コンビニの人は農家のおじさんの価値観とか知るわけないやん。こっちも向こうの感覚わからんし。

マヒト:俺らはバンド始めた時からそのテンションだったし、そのやり方でずっとやってきてるから。今さら「これが革新的なアイディアだ!」みたいに言われるとびっくりして(笑)。でも、メジャーですらここまでキテるってことですよね。もうこれは崩壊が見えてる。

————だったら、早くから自分たちのDIYを模索してた奴らのほうが強い。それは事実でしょうね。

五味:まぁ業界全体が終わっていってる感じはするな。でも俺らが続けていくこと自体は揺るがないというか。自分は音楽を止めないし、業界がどうなろうと音楽はずっとやるっていう前提で動いてきたから。

マヒト:そこは信用してやるしかないですよね。音楽と、自分自身と。あとポイントとしては、自分たちのこと気にかけてくれてる人のことを信用するってことで。今はこっちがリスク背負って何か挑戦するとして、そのリスクが見える時代だし、昔のシステムみたいにグレーなところないでしょ。どれくらいのカロリーなのかって何でも見えちゃう時代だから、逆に、上手いことやってやろうとするとダメなんじゃないかな。

五味:だから、何があっても続けていくものを、その都度その都度でどうやってベストな形で見せていくか。そういうところは気を使ってる。ほんまに音楽が大事で、それを自分で生み出したい、ちゃんと届けたいって気持ちがあれば、古いやり方には絶対ならないと思いますよ。

———— 今回GEZANはツアーとレコーディングのための〈BODY VUILDING PROJECT〉を発表しましたよね。いわゆるクラウドファンディングというか。

マヒト:いや、クラウドファンディング風。一見クラウドファンディングに見えるけど、結局は昔からある売り方と一緒ですね。物販を売ってお金集めてツアー行くみたいな。で、結局320万くらい集まったんですけど。

五味:それも凄い数字やな。……ちゃんと使った?

マヒト:ちゃんと使いましたよ! なんの心配ですか(笑)。でもお金の価値も昔とは意味が違う。今はCDの価値って2000円なのか0円なのか、もしかしたら1万円なのかもしれないですよね。下がってるだけじゃない気もするし、もっとプラスの意味で捉えることもできると思う。今回売ったTシャツも、人によっては5000円払ってくれるし、1万円出すプランもあって。もちろんTシャツ作る値段なんて知れてますよね? でもそれ以上の付加価値をこっちが提示して、それをジャッジしてもらえるのは正しいと思う。クラウドファンディングって出てくるべきして出てきた、すごくプリミティブなやり方ですよね。

五味:まぁ長い目で見たら、それこそCD買ったりライブのチケット買ったりするのも、「そのバンドがこれから出していく結果」に対するクラウドファンディングみたいなもので。そういう意味では自然な仕組みかもしれない。

———— ネットで直接呼びかけて実際にお金が集まって、それでアメリカツアーやってスティーヴ・アルビニとレコーディングができるって、夢があるというか、夢しかない話だと思うんですよ。

マヒト:うん。ツテもないけど普通にスティーヴにメールして、実際やってみたらむちゃくちゃエクストリームなアルバムができて。録ってる時は他のこと何も考えられないんだけど、ほんと行く前は「最高!」「ありがとう!」って気持ちでしたね。で、その気持ちは何らかの形にしたいなと思ってるんです。今一番新しい曲として出てるのが「Absolute Imagination」で、それも新しく録音してきたんですよ。

五味:あぁ、再録ってこと?

マヒト:そう。最初はアルバムに入れようと思ってたけど、それは入れずに〈BODY VUILDING〉に関わってくれた人たちに無料で渡そうかなと思ってますね。これは関わってくれた人の想像力みたいなもので録音できたものだし、そのドキュメントを大事にしたいなと思って。

五味:俺がさっきから言ってるのは、そういう気持ちに立ち返りたいってことやねん。売りモンじゃない、そこに入ってる気持ちってこと。

(次回アップのLOSTAGE × GEZAN Vol.2に続く)

INFORMATION

GEZAN 4th full album 「Silence Will Speak」

Recorded at Electrical Audio Studio
Recording and Mixing by Steve Albini

Mastered at Chicago Mastering Service
Mastering by Bob Weston

Design by 北山雅和

Photography by Shiori Ikeno

JSGM-30

●LP先行発売
2018年9月26日発売
¥3.000(税込)

●CD
2018年10月3日発売
¥2.300(税込)

LINK:
GEZAN

LOSTAGE [ In Dreams ] (CD作品/2600円税込)

収録曲

さよならおもいでよ
ガス

ポケットの中で
REM
泡沫の
戦争
I told.
僕のものになれ
Shoeshine Man

LINK:
LOSTAGE
THROAT RECORDS